いきなり入院した。僕にとってはちょっと早い冬休みみたいなもんだ。病院には同い年の里香って子がいた。彼女はわがままだった。まるで王女さまのようだった。でも、そんな里香のわがままは必然だったんだ…。里香は時々、黙り込む。砲台山をじっと見つめていたりする。僕がそばにいても完全無視だ。いつの日か、僕の手は彼女に届くんだろうか?彼女を望む場所につれていってあげられるんだろうか―?
第4回電撃ゲーム小説大賞金賞受賞の橋本紡が贈る期待の新シリーズ第一弾
出版社:アスキー・メディアワークス(電撃文庫)
この小説を読んでいると、『世界の中心で、愛をさけぶ』を思い出す。
好きな女の子がいて、その子が病気で、その女の子を病院から連れ出す、という構図はよく似ているし、『セカチュー』で出てきた祖父と、患者の多田さんは似ていると言えなくもない。どちらが先かという議論をするつもりはないが、両方ともセカイ系のテンプレート(言うなればお約束)に則っていることだけは確かだろう。
そんな似ている両者なのだが、個人的な趣味で言うなら、『セカチュー』よりも『半分の月』の方がおもしろい、と感じた。
そう思った要因はこの作品が『セカチュー』よりもはるかにまっすぐで、純粋さがあるからだろう。
ライトノベルという制約のゆえかもしれないが、この作品は少年が少女を思う、というシンプルな一点にきれいに集約されており、そこが個人的には心に響いた。
特に一人称で描かれた繊細な心理描写は見事で、父親の記憶や多田さんの記憶を交え、少女のために行動するという心理を説得力よく描き上げている点がすばらしい。
キャラ自体は里香や亜希子さんなどデフォルメされたキャラも多いが、彼らの心理をふとした言動から垣間見せるあたりは絶妙ではないだろうか。
ラストはお約束といえばそれまでだし、二人をはばむ真の意味での大人がいない(ゆえにまっすぐな印象を受けるのかもしれない)点が引っかかるが、希望といじらしさとを感じさせ読後感は良い。
好評を博したのも納得の繊細なラブストーリーである。
評価:★★★★(満点は★★★★★)
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